【自分らしく生きる未来のために、生前整理をしてほしい】
生前整理アドバイザー:鈴木 久美子
数年半ほど前、私が大切にしてきた家族関係が崩壊しました。
ずっと普通に生活し、年齢を重ねていくという当たり前の未来は、一瞬で消えました。
ショックのためうつ病を患い、1年が過ぎた頃、「当たり前だと思っていた人間関係や物事は、実は全く当たり前ではなくて、不確かで、流動的なもので、日常の当たり前は、私の思い込みに過ぎなかったのだ」ということに、ようやく気付くことができました。
おそらく私は、「こうあるべきだ」という既成概念に強く囚われすぎていたのでしょう。
未来に対して、明るい希望を抱けなくなっていた私は、自分自身の終活を考えるようになり、一昨年の春頃から、終活カウンセラーの勉強を始めました。
しかし、終活カウンセラーの勉強は私にとって暗いものではなく、「人生の終焉を考えることを通じて、自分を見つめ、今をより良く自分らしく生きる活動」に繋がるものでした。私は終活を深く学ぶにつれて、「もっと前向きに生きていきたい」と思えるようになっていきました。
終活カウンセラーが学ぶ内容は、介護、保険、年金、相続、葬儀、供養などがありますが、これらは専門分野の知識が必要なだけでなく、士業の方々との連携も大切になってきます。範囲の広さを感じた私は、「自分を見つめ、今をより良く生きる活動」をしていくために、もっと身近な物や人を感じながら活動できるような、具体的な取り組みはないだろうかと考え始めました。自分が肉体的にも精神的にも元気であるうちに、「自分が主体性を持って進めていけることって何だろう?」と探していたとき、身近で具体的な物の整理から始められ、自分の人生を素敵にしていける「生前整理」に出合いました。
多くの物を持たない私にとっての生前整理とは、心と情報を整理することでした。
情報の整理は、書類を時系列順に並べたり、タグ付をしてファイルに分類するなどしたほか、通帳をまとめ、保険を見直しし、必要のないものは解約。印鑑を統一しました。すべて、管理者は自分であるという自覚を持つために必要な作業でした。
私にとって最も重要だったことは、心の整理、特に人間関係の整理でした。家庭環境が変化したため、それまで属していたいくつかのコミュニティが崩れ、多くの友人が私のもとから去ってゆきました。疎外感と喪失感を強く感じましたが、依存心や執着心という心を整理することで、気心の知れた数名の友人たちとの穏やかな時間と、以前の友人たちとのご縁の復活を信じながら、心からの笑顔で居られる新しいコミュニティも出来ました。
今振り返ってみると、数年前の出来事は、それまでの人生を振り返り、見直し、整理する大切なターニングポイントと今は思えます。
物・心・情報が整理されてくると、自分にとって大切なもの。必要なこと。大事にすべき人間関係が見えてきます。余計なものが削ぎ落とされた分、お気に入りのものの中で生活できている充実感が湧いてきます。まさに、「足るを知る」です。
私は今、物質的にも経済的にも恵まれているわけではありませんが、精神的には前向きで、満たされた気持ちで過ごしています。
最近は、「不安でいっぱいだったこの数年、何とか過ごして来られたのは、あなたの励ましと応援があったから。本当にありがとう。」と、心からの感謝と素直な気持を、子どもや友人たちに伝えることができるようになりました。
また、子どもたちには、これからの生活プランや、介護・終末期医療、葬儀の希望などを具体的に話すことができています。
生前整理は、物・心・情報を整理していくこと。
単なるお片付けではなく、自分のすぐ近くにある物、愛した物を、主体性を持って整理していく中で、自分の身の回りだけでなく、自分の心の中や頭の中までも整理されていきます。
自分が何を必要とし、何を大切に思い、何を求めていたのか、考えながら、感じながら、取捨選択をしていく。その流れの中で、本当の自分の気持ちが分かり、周りの人の気持ちにも気付くことができるようになります。
そうなれば、今よりもっと自分らしく生きやすくなるはず。
物・心・情報を整理すると、自分自身が変化していけるように感じます。
決めるのは自分です。
他人軸ではなくて、自分軸で、お片付けのその先にあるものを見つけましょう。
遺される家族のことを思って、家族のために生前整理をするのはとても素敵なことだと思いますが、まずは自分のために、自分らしく生きる未来のために、生前整理をしてほしい。
私は、親世代の方ばかりではなく、若い年齢層の方々にも、生前整理を通して、未来を考える機会に巡り合っていただけるお手伝いをしていきたいと考えています。